持ち込んだのはドイツ人!?バリ島・ケチャダンスの秘密に迫る
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はじめに

皆さん!ケチャダンスを知っていますか?
バリへ観光したことのある方なら
一度は聞いたことがあるのでは?

筆者もそうなのですが
あの独特のメロディーを一度たりとも耳にすれば
頭から離れなくなってしまうんですよね・・・

しかし!!!

実はこのケチャダンス、ドイツ人が鑑賞用の舞台として考案したものなんです!

え、じゃああの踊りってただの見世物?

いえいえ、踊りもケチャケチャのメロディーも
きちんとした意味を持っています。

それでは早速、ケチャの秘密に迫っていこうと思います。

1 ケチャダンスとは?

 

説明するよりも何よりも
まずはこの動画を見るのが1番早い。

見て分かる通りで、数10名から100名以上の男性達が円陣を組んで座り、

楽器を用いずに声だけで物語を演じるのが特徴です。

さて、“チャチャチャ・・・”というかけ声が特徴のケチャですが、
このケチャの合唱は、旋律のない リズムパートを口で唱えているものです。

しかし、大勢の人が適当に唱えているわけではありません。

まるで狂っているかのようにしか見えませんでしたが(失礼)
もちろんそうではなくて、
強弱や音色を切り替えるリーダーの役割をもつ人、全体のリズムを保つ役割の人、
メロディを歌う人など、 様々な機能をもつ人と仕掛けがあり、
揮者なしで非常に高度なリズムアンサンブルを行っています。

2 ラーマーヤナの世界観

また合唱を行う人々は、
合唱を行いながら手や腕や身体を動かして物語の内容を表現したり盛り上げたりもしています。

そしてこの物語こそがラーマーヤナと呼ばれる古代インドの大長編叙事詩を表現しているのです。
中央で踊る人物もラーマーヤナの物語の登場人物です。

ちなみに、ラーマーヤナはヒンドゥー教の聖典の一つであり、
『マハーバーラタ』と並ぶインド2大叙事詩の1つでもあります。

東南アジアを旅行していれば
ジョグジャカルタのプランバナン寺院
カンボジアのアンコールワット
ラオスのワット・ポーといった世界遺産の壁面に
「ラーマーヤナ」の話が彫刻されているのが
見られるでしょう。

3 ケチャの起源

なぜドイツ人がバリでこのようなダンスを考案したのかが
1番気になるところだと思います。

その理由としては当時、バリ島に住んでいたドイツ人の芸術家、
がケチャの伝統が途絶えてしまうことを憂いたため、
西洋人の観光客向けに見せる芸能として再構成することを提案したことが始まりだと言われています。

「ケチャ」とは、本来は、「サンギャン・ドゥダ リ」 という2人の初潮前の少女が
トランス状態になって踊る儀礼の伴奏音楽として行われていた男声合唱です。
つまり、芸能の行われる文脈から切り離した形で、技芸を継承していく方法を考えたということです。

シュピースがバリに住んでいた1930年代は、オランダによる植民地時代であり、
バリ島の観光政策が推進されていた時期でした。
このシュピースの提案を元に、
ケチャの輪の中でヒンドゥーの叙事詩ラーマーヤナ物語
(ラーマ王子とシータ王妃の森での隠者生活の場面)を
踊り演じるという現在の形態のケチャが、バリの人々によって創作されたのでした。

4 豆知識

ちなみにケチャのリズムを刻む際に重要なのは、
「呼吸」を合わせることです。
吐く息とともに、下腹に力を入れて「チャッ」と声を出すのです。
よって、1時間近くケチャを続けていると過呼吸に近い状態になることもあり、
これが、トランスを引き起こすひとつの要因とも考えられています。

このトランス状態に陥るということは神が自分に降りてくると解釈されています。
実例の報告事例もあり。

ブラ・ダレムにおいて、ケチャを用いた創作舞踊の商業用映画の撮影に関わったときのことである。映画の中でケチャのシーンは、ほんの30秒くらい映るだけなのであるが、撮影用に3分くらいの作品を作ってバリのB村の人々 に演じてもらった。雨季の始まりの頃だったため、夜の撮影は連日雨のため流れてしまっていたが、たまたまその日は雨が降らなかったため、これまでの遅れを取り戻そうとして撮影が長引いてしまっていた。そして、夜中の12時を回ったころ、ケチャを演じていた一人の男性が突然トランス状態に陥り、何かを叫びながら暴れだしたのである。演技中にトランスに陥る演者はたまにいるのであるが、叫んだ言葉の内容が悪かったようで、その場にいたバリ語の通訳者は、顔面蒼白になり「神 様が怒った」と言い残し、その場を去ってしまった。そして、そのまま仕事を降りてしまったのである。そのときも、やはり、後日プマンクによっ てお祓いをしてもらったところ、その後は何も起こることなく、無事撮影を終えることができた。(中村氏)

すなわち、このケチャダンスは単なる踊りではなく
神との関係をも含めた濃密な劇的空間を創造していると言えるようです。

 

おわりに

どうでしたか?

まとめると、
ケチャダンスはドイツ人がケチャの伝統を残すために
鑑賞用としてラーマーヤナの物語に結びつけて考案し
神にも通ずる踊りとして
バリの人々によって今日まで継承されているということです。

ケチャダンスの背景について少しでも理解が深まっていただけたら幸いです。

 

参考文献:『バリ島の伝統芸能にみる文化の継承』 峯恭子

『バリ島の音楽と舞踊における共創コミュニケーション』中村 美奈子

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